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【「炎と愛のフィーナーレ」口上・あらすじ】
新宿ムーランルージュ。
それは今の武蔵野館通りが甲州街道と交叉する手前の右側に位置し、昭和六年以来きわめて魅力的な小劇場として存在した。
舞台装置に使われる「泥えのぐ」に脂粉の匂いが混じり、それに汗や人いきれが加わって、風通しの悪い衣裳部屋などには過ぎた時間の澱のようなものが発酵している。
老練な俳優やコメディアンの化粧前にはタバコや二日酔いの苦さが漂い、踊り子や女優部屋には彼女らの嘆きや溜息など若い性そのものが発散する甘酸っぱいフェロモンが充ちていた。それらは幕が上がってショーや芝居が始まると、その熱気の作用でそれぞれが強い自己主張を初め、そこには得も云われぬ「酔い」が生じる。それはワインやウイスキーが樽の中で新たな命を得て胎動し始めるのに似て、誰もが抱いている胎内願望を満たすような不思議な匂いと温もりを持っていた。だがしかし、新宿ムーランルージュに拠って生きるこれらの人たちにも容赦なく戦争と云う黒い影がすっぽりと覆い被さってきたのである。
時を経ずして、それは炎熱と殺戮の暴力となって真っ向から襲ってきた。 善意や思慕、尊敬や堕落、向上心や悔恨、嫉妬や横暴、諦めや軽蔑……さまざまな人間と人間を繋ぐ心や感情をひとくくりにして炎で焼き、人々が営々として築いてきたささやかな幸せの形を無差別に爆破し、一挙に街を灰燼にした。
時は昭和二十年五月二十五日……二ヶ月と廿日後の八月十五日に、終戦の詔勅が下った。
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